日本の伝統色に「鉄色(てついろ)」という色があります。
こう聞いて、皆さんはどんな色を想像されるでしょうか?
おそらく多くの方は、鉄くずやサビのような「茶褐色」や「黒く濁ったグレー」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、実際の「鉄色」とは、深く静寂な「青緑色(ダークグリーン)」を指します。
なぜ、鉄なのに「緑」なのか?
その答えは、やきものの窯の中、そして化学の不思議の中にあります。
私たちが日常で目にする鉄の茶色は、鉄が空気中の酸素と結びついた「酸化」の姿——いわば鉄が風化し、古びていった「サビ(酸化鉄)」の色です。
しかし、その酸化した鉄から、窯の中の激しい熱と一酸化炭素(炎)によって強引に酸素を奪い取る(還元する)と、鉄は本性の姿を現します。二価の鉄へと姿を変えたそれは、ガラス質と溶け合い、息をのむほど美しい「青磁の緑」や「鉄色の深いアオ」へと変貌するのです。
地球上のあらゆる物質は、時間とともに酸素と結びつき、酸化し、風化していきます。人間も含めて、生き物が老いていくプロセスもまた「酸化」です。
そう考えると、やきものにおける「還元焼成」とは、単なる技法の一種ではありません。
それは、酸化して風化していく自然の時間の流れに抗い、熱処理の技術によって物質から酸素を剥ぎ取り、もう一度「生まれたての若々しい姿」へと時間を巻き戻す「原点回帰の儀式」なのです。
酸化した物質が見せる「サビの仮面」を剥がし、物質が本来奥底に隠し持っていた「素顔(原色)」を呼び覚ますこと。
私はこれを、やきものにおける「還元主義(レダクショニズム)」と呼びたいと思っています。
一般的にも「還元主義」という言葉は、複雑な現象を最小単位に分解してその本質を解き明かす思考を指します。
陶芸において「私は還元主義者だ」と宣言するとき、そこにはこんな強い意志が宿ります。
「物質本来の色を、形状と組み合わせて極限まで引き出す表現者である」
10度単位の温度変化を見極め、窯の中の雰囲気(炎と酸素のバランス)をコントロールし、土と金属を生き生きとした原点へと若返らせる。
「鉄色」という不思議な深い緑は、人間が炎という技術を使って、時間の針を逆回転させた証(あかし)そのものなのです。
次に深い緑色の器を目にされたときは、ぜひ思い出してみてください。
その色の奥には、千数百度の窯の中でくり広げられた「時間を巻き戻すドラマ」が眠っているということを。

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