やきものと世界最強の磁石をつなぐもの

街を走る電気自動車(EV)やハイブリッドカーの駆動モーター、省エネエアコンの心臓部であるコンプレッサー、スマートフォンの微細な振動アクチュエータやスピーカー、パソコンのハードディスク、そして病院で体を精密に撮影するMRI装置——。

現代社会を支える最先端のハイテク製品には、決まって「ネオジム磁石」という世界最強の永久磁石が組み込まれています。

これほど高度なハイテク製品と聞くと、私たち陶芸の世界とはまったく無縁の、遠い先端工学の話のように思えるかもしれません。しかし、その磁石がどうやって作られているのか、その製造の根底にある考え方を知ったとき、私は強い驚きを覚えました。

それは「釉薬の製法」です。

長石や陶石といった「出発原料」を決めることから始まり、基本的な3つの原料を組み合わせて調合し、その後、窯に入れて焼成する——という一連の営みと、世界最強の磁石を生み出した製法が、驚くほど完全に一致していたからです。

技術のレベルや使われる設備こそ違えど、素材の力を極限まで引き出そうとする人間の知恵は、実はまったく同じ場所にたどり着いていました。

釉薬の基本「出発原料」と「三原料調合」

陶芸家にとって「出発原料」という言葉は、釉薬づくりを考えるうえで欠かせない基本です。

釉薬の骨格をつくる土台として、まず長石や陶石を出発原料に据えます。長石はガラスの主成分となる珪酸やアルミナを豊富に含んでいますが、それ単体では融点が高すぎて、通常の窯の温度ではきれいに融けきりません。

そこで、融点を下げて滑らかに溶かすための「木灰や土灰(媒溶原料)」を合わせます。しかし、この二原料だけでは、窯の温度が少し高くなっただけで釉が流れ落ちたり、貫入がひどくなったりして、焼き上がりが安定しません。

ここで欠かせないのが、第三の原料である「わら灰(調整原料)」です。稲わら灰に含まれる無定形珪酸が釉の粘性を保ち、流下を防いで調子を整えてくれます。

かつて陶工たちが「釉石7俵、土灰3俵、わら灰1俵」といった俵数で配合を決めた「俵合わせ」のように、性質の異なる3つの原料を組み合わせることで、透明釉をはじめ、マット調や乳濁釉、結晶釉といった多彩な美しさが生まれるのです。

世界最強の磁石も「鉄」を出発原料にした三原料から生まれた

この「三原料組合せ」という考え方は、実はネオジム磁石の誕生と重なります。

1982年に佐川眞人博士によって開発されたこの磁石も、3つの原料の配合によって成立しています。

磁石における出発原料は、自然界に豊富に存在する「鉄(Fe)」でした。

鉄は巨大な磁気(磁化)を宿す母体ですが、それ単体では磁石の向きを保ち続ける力(保磁力)が足りません。

そこで第二の原料として、強大な保磁力を生み出す希土類元素の「ネオジム(Nd)」を組み合わせました。そして最大の決め手となった第三の原料が、原子半径の極めて小さい「ホウ素(B)」です。

鉄とネオジムという二つの原料だけでは実用的な磁石の相が作れませんでしたが、微量のホウ素が加わることで、初めて強磁性を持つ理想的な結晶構造Nd2Fe14Bがピタリと安定しました。

母体となる出発原料(長石/鉄)、機能を促す原料(土灰/ネオジム)、そして全体を安定化させる調整原料(わら灰/ホウ素)。

三つの素材が互いの短所を補い、長所を引き出し合う構図は、釉薬の調合と全く同じロジックです。

 「熱」を媒介にして、ミクロな構造をコントロールする

さらに面白い共通点は、原料を混ぜ合わせたあとに「熱を加えて焼き固める(焼成)」というプロセスです。

釉薬は1200〜1300 ℃の窯焚きによって原料同士が混ざり合い、共融(融点降下)を起こして液相のガラスになります。そして冷却時の温度変化によって、微細な結晶を析出させてマットな質感にしたり、透明感を残したりと、目に見えないミクロな組織が固定されます。

ネオジム磁石も同様に、調合した粉末を約1100 ℃の炉で加熱する「液相焼結」で作られます。

三原料の絶妙なバランスによって低融点の液相がじわりと染み出し、粉末同士の隙間を埋めて緻密に固まります。
さらに冷却過程で、この液相が結晶粒子のまわりを薄い膜のように均一に取り囲むことで、表面のキズを防ぎ、驚異的な強さの磁力を閉じ込めるのです。

このとき佐川博士が選んだ配合比は、基本の化学式ぴったりではなく、意図的にネオジムとホウ素を多めにした配合でした。この「あえて少しズラした調合比」こそが、焼成時に理想的な液相を生み出す鍵でした。これは、窯の火度を見極めて灰の俵数を加減した陶工たちの直感と見事に重なり合います。

掌の中の素材科学

ハイテク産業を支える最先端の磁石も、私たちが工房で調合する釉薬も、その本質は「素材の相乗効果を引き出し、熱を媒介にしてミクロな構造をコントロールする」という普遍的なものづくりの理(ことわり)にあります。

日々の作陶で私たちが向き合っている土や灰の調合、そして窯の火。そこには、現代の最先端科学とまったく同じ深遠な自然の法則が息づいています。

次に釉薬を調合し、窯に火を入れるとき、自分たちの手のひらにあるこの営みの奥深さを、少し誇らしく思い出していただけたら嬉しいです。

(参考文献:『永久磁石』佐川眞人 浜野正昭 平林眞著 『陶芸の釉薬』『陶芸の土と窯焼き』大西政太郎著)

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