出島の 3 学者と現代陶芸に繋がる科学用語の旅

江戸時代、日本は鎖国政策の中で唯一西洋との窓口として開かれていた長崎の出島。
その出島には、17 世紀にケンペル(ドイツ人)、18 世紀にチュンベリー(スウェーデン人)、そして 19 世紀にシーボルト(ドイツ人)といった学者が訪れ、それぞれが日本と西洋の知を結びつける架け橋となりました。彼らは日本と西洋の架け橋となり、さまざまな分野で知識を広めました。

特にシーボルトは、医学と博物学の分野で多大な貢献を果たしました。
彼が日本で出会った学者の一人に、宇田川榕庵がいます。榕庵は当時の漢方医学、儒学、自然博物学の専門家であり、シーボルトと交流を深めました。榕庵の研究は非常に多岐にわたり、日本の学問の発展に大きく貢献しました。

榕庵が生み出した多くの科学用語は、現代の私たちが使う「酸素」「還元」「温度」「気化」「金属」などがあります。これらの用語は、単に学術的な文脈だけでなく、私たちの日常生活や、特に陶芸の分野で欠かせないものとなっています。

例えば、陶芸で重要なプロセスである「酸化」と「還元」は、焼成の際の窯の中の環境を示す言葉です。
酸化状態では窯の中に豊富な酸素が供給され、作品が鮮やかで明るい色に仕上がります。
一方、還元状態では還元ガス(一酸化炭素や水素など)の作用で金属が酸化する前の本来の色にもどされ、作品に独特の風合いと美しい釉薬の色を与えます。

私も、陶芸用ガス窯の製作においては、「ガスとエアーの量をコントロールすれば酸化も還元も自由にできる」という、鈴木蔵氏(陶芸の人間国宝)の言葉を信じています。ガス窯はその特性上、酸化と還元の調整がしやすく、焼成の多様性を実現できます。
ガス窯の持つこの柔軟性は、陶芸家にとって非常に魅力的です。
様々な焼成条件を試し、理想の作品を追求できるガス窯は、まさに陶芸家のクリエイティブなパートナーと言えるでしょう。

そして私たちが何気なく使っている「酸化」「還元」「温度」などと言う科学用語は江戸時代、宇田川榕庵というすぐれた学者が作ったということも知ってもらいたいと思います。
宇田川榕庵が築いた科学用語の基礎があってこそ、現代の陶芸もまた支えられているのです。彼の業績を敬いながら、私たちもまた、新たな価値を創造していくことが求められています。

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