釉薬を支える3つの鉱物
やきものづくりに欠かせない材料のひとつに、「釉薬(ゆうやく)」があります。これは焼き上がった陶器や磁器の表面にガラス質の層をつくり、見た目を美しくするだけでなく、使い勝手を良くする重要な役割を担っています。その釉薬の出発原料には、「長石」「陶石」、そして「ペタライト」という3つの鉱物があります。
まず、長石は主に陶器用の釉薬に用いられる鉱物で、比較的低い温度で溶けやすく、やきものの表面に滑らかな層をつくります。陶石は、磁器用に適した特性を持ち、白く硬い仕上がりを生み出します。そして、ペタライトは別名「リチウム長石」とも呼ばれ、耐熱性に優れた釉薬や素地の材料として、土鍋や耐熱皿などの製品づくりに使われてきました。
陶芸と電気自動車が交わる意外な接点
ところが、ここ数年、このペタライトが陶芸以外の分野で急速に注目されています。それが「電気自動車(EV)」です。ペタライトに含まれるリチウムは、EVのバッテリーの主要原料のひとつであり、世界的な需要が急増しています。そのため、ペタライトの価格は高騰し、陶芸用として手に入れるのが困難になりつつあります。
特に、土鍋や耐熱性の器など、ペタライトを用いた作品を手掛ける陶芸作家にとって、この変化は大きな悩みの種です。素材の確保が難しくなり、コストが跳ね上がった結果、従来の価格では作品を販売できなくなったという声も少なくありません。また、一般市場に出回る土鍋の価格も軒並み上昇し、私たちの身近な食卓にも影響が及び始めています。
過去と未来をつなぐやきもの
伝統的な陶芸の世界と、最先端の電気自動車。この2つの分野が、ひとつの鉱物を通じてつながっているというのは、驚きであり、考えさせられる事実です。古くから土鍋や器に使われてきた素材が、現代の技術革新を支える重要な役割を果たしているのです。
これを考えると、やきものに使われる素材には、私たちの生活や技術の未来を支える可能性が秘められていることが分かります。陶芸は過去から続く伝統であると同時に、未来とつながっている──そんな視点でやきものを見ると、さらに魅力的に感じられるのではないでしょうか。