加藤唐九郎は『やきもの随筆』の中で、窯焼きについて次のように述べています。
窯焼きは製鉄の技術や町の鍛冶屋が金属を加熱する技術と同様の原理を持ちながらも、窯内で起こることは非常に複雑で微妙です。そのため、思わぬことや予期せぬ事態がしばしば発生します。
今回は、製鉄技術とやきもの窯焚きの共通点を探りながら、それをガス窯焼成にどのように応用できるのかを考えてみます。
製鉄技術に学ぶ窯操作のヒント
製鉄では、高炉で粗鋼を作る際、粗鋼中の炭素を除去する工程があります。これは空気を高温の粗鋼に吹き付け、炭素分を燃焼させて取り除く方法です。この過程では、高温の粗鋼に空気を送り込むと20~30分ほど炭素分が炎を上げて燃え続けます。
この現象は、ガス窯の還元焼成、特に1150℃以降におけるセメ焚きの操作に類似しています。バーナーの一次空気を増やし、少しずつ窯内温度を上げる現象を理解する上で、製鉄技術が参考になるのです。
還元焼成のプロセスと注意点
ガス窯の還元焼成は、950℃(もしくは970℃)で還元炎に切り替えることから始まります。この時点では強い還元を避けます。理由は、釉薬がマット状態で強還元をかけると、発生した炭素が釉薬と反応して焼き上がりまで残留することがあるためです。
1050℃に達すると還元炎が確認でき、強還元雰囲気を形成できます。化学反応は1000℃を過ぎると活発になり、釉薬も1050℃を超えると色が変化し始めます。この間(950~1050℃)は、酸化雰囲気から還元雰囲気に移行する過渡期であり、温度が低い分、炭素が釉薬に沈着しやすくなります。そのため、煙が発生するような強い還元は避け、弱めの還元を維持することが重要です。
1050℃を超えると炭素沈着のリスクが減少するため、強還元を行いやすくなります。しかし、還元炎が黒煙を発生したり、ガス燃焼特有の異臭が生じる場合は燃焼効率が低下しているサインです。この場合は一次空気や二次空気の量を調整します。
一酸化炭素、水素ガス、遊離炭素が生む還元雰囲気
強い還元炎では窯内に一酸化炭素、水素ガス、遊離炭素が発生します。この3つが還元雰囲気を形成し、特に1050~1150℃の間はその効果が高い状態が続きます。
1150℃になると釉薬が溶け始め、ガラス化が進行するため、還元の効果は徐々に低下します。加えて、1200℃付近では炉内温度が炎の形成限界(黄橙色の炎が約1200℃)に近づき、昇温が難しくなります。この段階で強還元を続けることは燃料消費の増加を招くだけです。
ガス窯における3つの昇温方法
1150℃以降のガス窯焼成では、以下の3つの操作方法が考えられます。
- ガス圧を上げて昇温する程度に強い還元を維持する
ガス圧を上げ、一次空気と二次空気も増やします。これにより炉内に投入される熱量が増え、強還元を維持しながら昇温が可能です。ただし、必要のない燃料を投入することになるため、燃料効率の点で注意が必要です。 - ドラフトとダンパーを操作して二次空気だけを増やし、還元を弱める
ダンパーを開けることでバーナーの炎の外側に供給される二次空気が増加し、酸化炎に近づくことで炎の温度が上昇します。この方法は窯内の還元雰囲気を弱め、昇温を図るものですが、同時に窯の外に熱が逃げるため、操作は繊細になります。一方、ドラフトを調整し三次空気を減らすことで煙突の温度を上げ、煙突内の熱流を改善して昇温を助ける手法も有効です。 - バーナーの一次空気を増やし、還元を弱める
一次空気を増加させることでバーナーの火炎温度が上がり、窯内の熱が外に逃げることなく昇温が可能です。この操作は窯内に存在する遊離炭素を徐々に燃焼させ、その燃焼熱で温度を上げる効果があります。この現象は、製鉄における粗鋼中の炭素を空気で燃焼させる工程と類似しています。
ガス窯は陶芸の可能性を広げる
ガス窯は、温度や還元雰囲気を自由に調整できる点が大きな魅力です。登り窯や電気窯と比べ、ガス窯は燃焼時の空気量や炎の性質を細かくコントロールできるため、多様な表現や釉薬の変化を追求できます。例えば、還元焼成では微妙な温度変化や炎の調整によって、同じ釉薬でも異なる発色や質感を引き出すことが可能です。また、操作の自由度が高いため、作家の意図をより反映した焼成が行えます。
さらに、ガス窯はエネルギー効率が高く、燃料費の管理も比較的しやすいのが特長です。初心者にとっては少々敷居が高いように思えるかもしれませんが、一度操作を習得すれば、窯の中で起きる現象をコントロールする楽しさが得られます。ガス窯を活用することで、伝統的な技法と現代的なアプローチを組み合わせ、新しい表現の可能性を切り開くことができるでしょう。