陶芸用ガス窯の安全な焚き始め手順

1. 窯焚き前の「3つの開く」

窯焚きを開始する前に、以下の3点を必ず実施してください。これは、焼成過程の最初の20%(約0~250℃)に事故や焼成不具合の80%が発生するというパレートの法則を参考にした安全対策です。

  • 1. 扉を開く
    扉を開けたまま点火することで、万が一点火直後に炎が消えた場合でも、ガスが密閉空間に溜まらず、爆発リスクを大幅に低減させます。
    ネット上で「扉を閉めたまま点火」という情報が見受けられますが、これは大変危険です。炎が消えた際にガスが流れたまま蓄積し、密閉状態で火種があると爆発する可能性があるためです。
  • 2. ダンパーを開く
    点火前には必ずダンパーを開け、不完全燃焼を防止してください。ただし、点火当初は全開ではなく、煙道断面積の1/3~1/4程度の開度で十分です。
    点火直後は煙突が冷たく、二次空気がほとんど供給されないため、開度を低くしておき、煙突が温まるタイミングで適切な調整を行います。これにより、二次空気過剰による失火を防ぎ、安全な窯焚きを実現できます。
  • 3. バルブを開く
    ガス配管には高圧、中圧、低圧の3段階のバルブが存在し、点火時も消火時もガスの流れの上流から順に操作する必要があります。
    • 点火時の手順:
      1. ボンベに近い側から順にバルブを開ける。
      2. 高圧と中圧のバルブはゆっくり開け、配管内の「シュッ」という圧力音を確認しながら全開にする。
      3. バーナーに近い低圧バルブは、素早く開ける。
    • 消火時の手順:
      1. 次回点火時に必要な圧力(4~5㎪)までガスの圧力を下げる。
      2. ボンベ側の元栓バルブを閉じ、バーナーの炎が完全に消えていることを確認後、順次他のバルブを閉じる。

2. 点火時の注意点と具体的な動作

  • 扉を開けた状態で点火する理由
    点火初期は炎が消える可能性があり、その場合でも扉が開いていればガスが窯内に蓄積せず、爆発リスクが大幅に減少します。実際、点火時のガス圧は約4㎪で、左右のバーナーを順に点火する際、圧力の低下や失火が発生する場合があります。この間、密閉された窯内でガスが蓄積すると、火種と相まって爆発事故に発展するリスクがあるのです。
  • ガス爆発のメカニズム
    ガス爆発は「密閉状態」「爆発限界(約2~9%のガスと空気の混合状態)」「火種」という3要素が揃った場合に発生します。扉を開けることで、密閉状態を回避し、これらの危険要素を未然に防ぐことが可能です。

3. ダンパーとバルブ操作の科学的根拠

  • ダンパーの役割と設定
    点火直後は煙突の温度が低いため、二次空気がほとんど供給されません。ダンパーを適切に調整することで、温度上昇とともに二次空気の供給を徐々に増やし、バランスの取れた燃焼状態を作り出します。
    また、ガスの圧力を約4㎪に保つことで、家庭用ガスコンロの圧力(約3㎪)と同程度に設定し、慣例に基づいた安全な設計がなされています。

バルブ操作のポイント
高圧・中圧バルブは、急激な開放による配管設備の破損を防ぐため、ゆっくりと段階的に開ける必要があります。対して低圧バルブは、迅速な開放が求められます。低圧部のバルブを素早く開けることで、ガスの出る量が十分に確保され、バーナーヘッド(火口)上での正常な炎の確保が可能となります。

重要なポイントまとめ

  • 「3つの開く」: 扉、ダンパー、バルブを必ず正しい順序と方法で操作することが、点火時の安全確保に不可欠です。
  • 扉を開ける: 炎が消えた際のガス蓄積を防ぎ、爆発リスクを低減。
  • ダンパーの調整: 点火初期は1/3~1/4の開度、煙突温度上昇に合わせた調整が重要。
  • バルブ操作: 高圧・中圧はゆっくり、低圧は迅速に開けることで設備の破損を防ぎ、安全な燃焼状態を実現。
  • 消火手順: 次回点火時の準備を含めた、確実な手順での操作が必要。

点火までの250℃が、最も注意が必要な時間です。そのひと手間が、未来の安心につながります。

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