味噌汁と釉薬

味噌汁と釉薬三つの素材が織りなす日本文化の妙

私たち日本人にとって、味噌汁は毎日の食卓に欠かせない存在です。その起源は飛鳥時代、中国から伝わった豆味噌にまでさかのぼります。大豆、塩、水から作られるこの発酵食品は、庶民から天皇まで広く愛され、江戸時代には外国人旅行者も驚嘆したほどです。

味噌汁の基本はいたってシンプル。味噌、出汁、具材という三つの要素で成り立っています。この三原料の組み合わせが、無限のバリエーションを生み出す秘訣です。それぞれの家庭や地域に根付いた味噌や出汁があり、具材を変えることで季節感や個性を楽しめるのが特徴です。

では、この三原料の調合という発想が、やきものの世界にもあるとしたら?

日本各地の灰釉と三原料

陶芸の釉薬、特に日本各地で伝統的に用いられている「灰釉(はいゆう、かいゆう、はいぐすり)には、味噌汁と似た仕組みが見られます。

灰釉の基本原料は以下の三つです。

  1. 長石(ちょうせき) – 基本となる出発原料。地域によって名称は異なるものの、一つの産地のものをそのまま使用します。
  2. わら灰 – 稲わらを燃やして得られる灰で、成分が安定しているため固定的に使われます。
  3. 木灰 – 最も変化をもたらす要素。樹木の種類や部位、さらには燃焼方法によって成分が変わり、釉薬の仕上がりに影響を与えます。

特に木灰は「味噌汁の具材」に相当します。例えば、雑多な木を使った土灰は、焼成によって茶色や緑色に発色する一方、鉄分の少ない柞灰(いすばい)は白く仕上がります。また、木の根を多く含む灰では乳濁した釉薬が得られるなど、多彩な表情を生み出します。

味噌汁と釉薬の意外な共通点

味噌汁の味噌と出汁が安定的な土台となり、具材で変化をつけるように、灰釉も長石とわら灰を固定し、木灰の調整で変化をつくることができます。

この共通点は、日本人が三つの要素を絶妙に組み合わせ、変化を楽しむ文化を育んできた証ともいえるでしょう。

陶芸家が釉薬の調合にこだわるのは、木灰の変化が生み出す「自然の妙」を楽しむから。味噌汁が家庭ごとの工夫で毎日違う顔を見せるように、釉薬もまた、その都度異なる表情を見せてくれます。

味噌汁は、どんな家庭にもある親しみ深い存在。それが釉薬と共通点を持っていると知るだけで、やきものが少し身近に感じられるのではないでしょうか?
日本人が大切にしてきた「三つの調和」を感じることで、味噌汁のように毎日の暮らしに溶け込む陶芸作品がもっと増えるかもしれません。

参考文献:陶芸のための科学 素木洋一著、陶芸の釉薬、陶芸の土と窯焼き 大西政太郎著、やきものの科学 樋口わかな、江戸参府随行記 C.P.チュンベリー著、料理の科学 斎藤勝裕著、 醤油・味噌・酢はすごい 小泉武夫著、発酵 小泉武夫著ほか

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