やきものとバタフライ効果

小さな差異が予想外に大きな違いを生む「バタフライ効果」という言葉をご存じでしょうか。

この考え方は1961年、アメリカの気象学者エドワード・ローレンツが気象シミュレーションを行う中で発見しました。彼は、初期条件のわずかな違いが最終的な結果に大きな変化をもたらすことに気づき、この現象を「ブラジルで1羽の蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起きる」と例えました。

これは、小さな差異が驚くべき影響を与える自然の不安定性を示したものです。

この「バタフライ効果」の考え方は、陶芸、特に炎を使った焼成にも通じる部分が多くあります。

私は陶芸用ガス窯メーカーとして窯の設計や焼成に関わっていますが、その立場からも、焼成におけるわずかな違いが作品の仕上がりに与える影響には日々驚かされます。

たとえば、窯内部の温度分布や酸化還元の状態は、わずかな空気の流れや湿度の違い、さらにはバーナーのノズルの汚れひとつで大きく変わります。

実際に、ガス窯のノズル孔に詰まった異物を取り除くだけで、焼成時間が数時間短縮され、燃料の節約につながったという事例もあります。このような変化は、窯の中の小さな変化が、焼成全体に大きな影響を及ぼす様子を物語っています。

また、釉薬においても似たような現象が見られます。たとえば、釉薬に含まれる酸化金属の量を1%調整するだけで、色合いや質感が劇的に変化することがあります。

さらに、素焼きを終えた窯に残るわずかな水分が、上絵の発色に影響することも知られています。

この残留水分は、800℃前後の高温で素焼きを行った後でも窯内部に残るもので、発色を繊細に左右する要因となり得ます。これらの事例は、焼成における「バタフライ効果」を実感させるものであり、陶芸の奥深さを象徴しています。

陶芸用ガス窯の設計と運用は、こうした繊細な差異が生む大きな違いを見据えて進化を続けています。

私たち窯メーカーにとって、陶芸家が思い描く理想の焼き上がりを実現するためには、わずかな調整がどれほど大きな影響を与えるかを正確に理解し、対応することが欠かせません。

やきものの世界は、まさに「小さな差異が大きな違いを生む」世界です。

この事実に気づき、向き合うことで、陶芸家の皆さんはさらに深い表現力を追求できるでしょう。

そして私たち窯メーカーも、そのお手伝いができるよう努めていきたいと思っています。

参考文献:数学のすべてがわかる本 科学雑学研究俱楽部編

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